どうも、のべろです。
近年、chatGPTをはじめとした生成AIの台頭が著しくなってきました。
claude3は日本語が上手いとか、
WindowsのOSにcopilotというAIが組み込まれるとか、
chatGPTが日本語に最適化されたAIをもうすぐ公開するとか、
AI関連のニュースを聞かない日はありません。
AIはすでに一般市民にとっても身近なものとなり、
業務を効率化したり、
動画や音楽を作ってもらったり、
様々に人間の生活を豊かにしています。
そういうわけで、
「じゃあ小説にも使えないの?」
と考えるの自然なことでしょう。
僕の周りでもプロアマ問わず、
生成AIを小説執筆に活かせないか、
という試みが色々と行われているようです。
そして僕自身も課金(月額20ドル)して、
最新のchatGPT4やClaude3 Opusを触ってみたりもしました。
イラスト界隈などでは大きな問題になっており、
創作にAIを使うことの是非はまだ議論の余地があるかもしれませんが、
個人的には「作品が面白くなるのなら活用すべき」というスタンスです。
(周りもだいたい同じ温度感だと感じていますが、
このあたりはAIがより進化すると変わってくるかもしれません)
さて、みなさんにとって気になるのは
小説を書くのにAIがどれぐらい役に立つのか、ということでしょう。
期待させないように初めに言っておくと、
AIが物語創作で効果を発揮する場面は限定的だと考えています。
より詳しく言えば、
実力のある人がAIを活用して時短することはできても、
実力のない人がAIを活用して実力以上の作品を作ることは難しいです
生成AI「だけ」では面白い物語は作れない
まず断言しておきたいのは、(少なくとも現時点では)
生成AIだけでは商業出版レベルの小説は作れない
ということです。
これについては
AIによる小説執筆の方法を詳細に試行している方がいたので、
その記事を紹介しておきます。
と言っても全部読もうとするとかなり長いので、
要点だけまとめると……
自然な日本語を書けると評判のclaude3を使って、
アイデア、キャラ、ストーリー、プロット、本文執筆と段階的に執筆を進めてみようという試みです。
かなり細かく作業段階を分けて一般化しており、
途中で多少なり人間の判断も入っていますが、
ある程度AIに任せて執筆させた物だと言えると思います。
そうして完成したものも掲載されているので、
プロットを作るまでの途中で生成されたキャラクターとあらすじ、
そして最終的に出力された本文の冒頭を以下に引用します。
キャラクター・あらすじ
キャラクター紹介:
– 主人公: 高校2年生の男子生徒、結城瑛斗。正義感が強いが、事件の記憶の一部を失っている。
– 親友: 瑛斗の親友、神谷翼。冷静沈着で、瑛斗を支える存在。
– 自殺した生徒: 2年前に亡くなった、山崎美月。生前は瑛斗たちの先輩だった。
– 真犯人: 瑛斗のクラスメイト、岸田大和。美月に片思いしており、嫉妬深い性格。
あらすじ:
結城瑛斗は、学校の怪談「悲しみの少女」の霊に取り憑かれ、霊障に悩まされる。親友の神谷翼と共に調査を開始し、霊の正体が2年前に自殺した山崎美月だと判明する。瑛斗自身が美月の死に関わっていた可能性が浮上し、記憶の一部を失っている瑛斗は、自分が犯人なのではないかと苦悩する。しかし、真犯人は瑛斗のクラスメイト、岸田大和だった。瑛斗は真実を明かし、美月の霊を解放する。
ストーリー展開:
1. 瑛斗は「悲しみの少女」の霊に取り憑かれ、霊障に悩まされる。
2. 親友の翼と共に、霊の正体を調べ始める。
3. 霊が2年前に自殺した美月だと判明する。
4. 調査を進めるうち、瑛斗自身が美月の死に関わっていたことが明らかになる。
5. 記憶の一部を失っている瑛斗は、自分が犯人なのではないかと動揺する。
6. 瑛斗の行動が怪しく見えるエピソードが続き、読者も瑛斗を疑い始める。
7. 真犯人は瑛斗のクラスメイト、大和だと判明。大和は美月に片思いしており、瑛斗への嫉妬から事件を起こしたのだ。
8. 瑛斗は真実を明かし、美月の霊に謝罪。霊は成仏する。
9. 大和は逮捕され、罪を償うことになる。
10. 瑛斗は失った記憶を取り戻し、事件の傷を乗り越え、前を向いて歩み出す。
長編小説のストーリー作成 2(ストーリー改善) より
本文(冒頭のワンシーンのみ抜粋)
昼休みのチャイムが鳴り響く中、僕は校舎の階段を上っていた。屋上に向かう理由はない。ただ、なんとなく外の空気を吸いたくなっただけだ。
屋上の扉を開けると、強い日差しが僕の目を射た。まぶしさに目を細めながら、僕は屋上に足を踏み出した。
そのとき、突然、激しい頭痛に襲われた。まるで頭の中で何かが爆発したかのようだ。僕は思わず両手で頭を抱えた。
「うっ……」
呻き声を上げながら、僕は屋上の隅にしゃがみ込んだ。頭痛はどんどん激しくなり、視界がぼやけてくる。
そのとき、僕の目の前に、ぼんやりとした人影が浮かび上がった。
長い黒髪の女の子……。制服を着ているが、見覚えのない顔だ。
「助けて……」
女の子の口から、か細い声が漏れた。
「だれ……?」
僕が問いかけると、女の子はこちらをじっと見つめたまま、消えてしまった。
頭痛が和らぐと同時に、女の子の姿が消えた。まるで幻覚を見ていたかのようだ。
立ち上がった僕は、女の子が立っていた場所に歩み寄った。
そこは、屋上の端っこだった。下を見下ろすと、校舎の前庭が見える。高さは約二十メートルはあるだろう。
ここから飛び降りたら……。
そう思った瞬間、僕の脳裏に、女の子が飛び降りる姿が浮かんだ。
まさか……自殺?
そんな恐ろしい想像をしながら、僕は女の子の言葉を反芻した。
「助けて」……。
女の子は、僕に何かを訴えようとしていたのだろうか。
頭を抱えたまま、僕は混乱した思考を巡らせていた。
・・・
長編小説の執筆 6(実際の生成された作品前半) より
いかがでしょうか。
このようなアウトプットに至るまではたくさんの努力がありますので、
詳しく知りたい方はぜひ原文をご一読ください。
(本当に素晴らしい試みだと思います)
そして、肝心の作品のクオリティについては、
人によって意見が分かれるところかもしれません。
人間が作ったと言われても信じてしまう出来になっていることは事実です。
ですが、
「きちんと作品になってはいるが、
商業レベルに使うものとしては物足りない」
というのが大半のプロの見方になるのではと思っています。
本記事の趣旨からは少し脇道に逸れますが、
具体的に上の作品を軽く分析すると、
まず気になるのは企画やストーリーの弱さです。
本作のログラインは
「学校の怪談『悲しみの少女』の霊に取り憑かれ霊障に悩まされる、一部の記憶を失った男子高校生が、親友とともに霊の正体、そして過去の事件を調べていく話」
といったところでしょうか。
確かに物語にはなっていますが、
ちょっとこれだけでは物足りないですよね?
「学校の怪談」「記憶喪失」という要素もイマイチ効いていませんし、
例えば「どんな主人公」「どんな相棒(あるいは幽霊)」を突き詰めるなどすると印象は変わりそうですが、
現状では特徴のない設定で収まってしまっています。
(このへんはラノベ的な感覚かもしれませんが)
そして物語の本筋を見ても、
「真犯人は被害者をいじめていた嫉妬深い男でした」というオチは物足りなく感じます。
AIは「統計的によくある文章」を出力しているらしく、
その仕組み上、ありきたりに見えるものが出てくるのは仕方がないところです。
そして本文に目を移してみても、
しっかりと読める日本語を書けていることは間違いありませんが、
状況説明が雑だったり、一つ一つの描写が薄かったりと、
やはり手を加えずに使うのは難しいように思えます。
新人賞的な感覚では、
おそらく一次落ち、よくて二次落ちくらいでしょうか。
上の方の実験とは関係なく、
僕も自分でclaude3 Opusを触ってみたのですが、
ほぼ変わらない印象を持っています。
0から物語を作らせようとすると、
たいていありきたりなものしか出てきません。
なら0からじゃなければどうかという話ですが、
僕が商業作品のために書いた丁寧なプロットを読み込ませて本文を書かせてみても、
人間(僕)が書いた原稿には数段劣り、
キャラ情報などもなかなか反映しきれていないので、
たたき台として使うことすら難しいと感じました。
本当にうまいプロンプトを作れば多少は違うのかもしれませんが、
現状AIを使うとこのくらいかな、という限界が見えています。
さて、ここまではAIに「物足りない」と言ってきましたが、
そんな中でも「これは生成AIを活用できるな」と思っているものはちゃんとあります。
それは、「視野を広げるためのアイデア出し」です。
アイデア出しはAIの得意分野
僕が執筆にAIを使う時は、
もっぱらアイデア出しに利用しています。
例えばシンプルなところでいうと、
「柔らかい印象を与える男の子キャラクターの名前の候補を考えて」
「小説の設定としてこういう組織を出すんだけど、その名前の候補を考えて」
といったものです。
(無料版chatGPTの回答。会員登録なしでも利用できるので、興味があればいろいろ試してみてください)
そしてこういう単純な質問だけでなく、
もっと物語創作にかかわる踏み込んだ質問をしても、
AIはしっかりとアイデアを出してくれます。
例えば
「~~というコンセプトの新しい学校を考えているが、この学校にはどんな施設やルールがある?」
「~~というログラインの物語を考えていて、三幕構成でいう第一幕は~~というストーリーにしようと思っているが、第二幕の展開が思いつかない。どんな展開が候補になる?」
といったものですね。
こういったアイデア出しの早さについては、
AIが人間と比べて絶対的に得意としている領域です。
(実際に今書いている作品のアイデアなんかを試してもらえるとわかりやすいと思います)
ただし、です。
こちらが大事なことですが、僕の場合、
AIにアイデアを出してもらったとしても、
それをそのまま使うことはほぼありません。
理由は簡単で、質が微妙だからです。
AIは「統計的によくありそうな文章を書いているだけ」らしく、
どこかで見たような展開ばかりが並びます。
それらをより詳細に深掘り、
その作品にしかないエピソードなどに昇華するのは、
AIにはなかなかできません。
もちろん、物語全体の整合性やキャラクター性との相性を考えることも必要で、
何でもかんでもAIのアイデアを採用できるわけではありません。
そもそもAIがラノベに特化しているわけではないですし、
「ライトノベルの編集者として考えてください」
なんて指示を出しても限界がありますからね。
こういった特徴は有料版のAIを使ってみても同じなので、
結局今はもう無料版しか使っていません。
とはいえ、AIのアイデアからヒントを得ることは多くあります。
「今まで考えてなかったけど、そっちの方向性もあるのか」と気づかされたり、
「考えてた展開にそっちの要素を入れたらもっと面白くなりそう」と考えが発展したり。
正解をピンポイントに教えてもらうというよりは、
新しい刺激を受けることで脳が活性化するイメージです。
その結果、
AIのアイデアよりもはるかに面白いものとなって完成する、
という経験は何度もあります。
そして、このような経験から感じているのは、
AIを活用しても、自分の実力を上回る小説は創れない
ということです。
AIは実力を引き上げてくれない
「そもそも実力って何?」という話ですが、
僕は小説の実力として
「優れたアイデアを出すこと、それを優れていると判断すること」
創造と選択、その両方が必要だと思っています。
実のところ、
凡庸なアイデアというのは結構誰でも思いつきます。
「こんなヒロインが可愛いんじゃないかな~」とか、
「こんな題材を小説にしたの面白いんじゃないかな~」とか、
全く小説を書かない読者でも、こういうアイデアは出せます。
ただ、「優れたアイデア」「面白いアイデア」を出すとなると話が変わります。
ましてやそれを1つの物語にするとなると、
アイデア出しが大変なのはもちろん、
取捨選択が生じます。
ヒロインの初登場はどんなエピソードにするのか、
主人公の過去はどのようなものにするのか。
どれだけ重要なポイントでも、
物語にする際には1つしか選べません。
そこで何を選択するか、
どれほどセンスのある選択ができるかが、
やはり小説家の実力と呼べるでしょう。
設定だけではなく、
書いては消したりを繰り返す文章を一つ一つを取ってみても、
創造と選択の連続ですよね。
そして今のところ、
AIの創造にすべてを任せるという手法ではなかなか良いものができません。
なので、AIが創造したものをより優れたものに昇華させる、
あるいはAIが創造したものの中から優れたものを見抜いて選択する、
そういった工程が作家に求められるわけです。
AIのアイディアが良いものかどうかを判断するのも、
最後に何を選ぶか選択するのも、
全ては人間次第です。
なので原理上、
作家のセンス・感覚が商業レベルに達していない限り、
商業レベルの作品は作れません。
あくまでAIは作家の補助を務めるというわけですね。
僕もAIを創作に活用して作品の質を高めることには賛成ですが、
「AIを使えば面白くなる」と安直に考えるのではなく、
物語の感覚と技術を磨く
という本質を忘れてはいけないな、
と常々自分を戒めています。
以上が現状での僕の結論ですが、
本当にAIだけで面白い物語を作れるようになれば話は変わってきます。
数年後になるかと思いますが、
そのときはまたブログを書きますね。
P.S.
Claude3で生成するGen-AI活用小説執筆研究【産総研AITeC「Generative AI Study Group第22回」】
に参加してきました
仰々しい見出しですが……。
この記事を書こうと思ってclaude3×小説で調べ物をしていたところ、
「Claude3で生成するGen-AI活用小説執筆研究」という名前の勉強会を見つけたので、
とりあえず参加してみました。
AIの研究をしているグループによる企業向けの勉強会らしく、
申し込みフォームに「所属企業」とあったりと少しハードルが高かったですが、
参加してみれば誰でもウェルカムな、
ZOOMでのオンライン講座のような形でした。
2時間ほどの勉強会で、
当日使われた資料も公開されているので埋め込んでおきます。
矢印ボタンを押すとスライドが見られるはずです。
内容は、主要AI三つに小説を書かせ、そのクオリティを比べるというもの。
また、発表者の方が趣味で書いた文章を改善させる試みもあります。
小説創作に関するディープな内容があればな~と思って参加したので
ちょっと求めている内容よりは浅かったのですが、
文章を読み込ませて雑に改善命令を出すだけでもそれなりの改善策が出てくるのは新しい発見でした。
もちろんそこでも人間による選択が発生しているわけで、
なかなかそのまま採用とはいきませんが、
気になる文章については使ってもいいかも、と思えるテクニックでした。
こういう新しい機会に飛び込んでいくのは勇気が要りますが、
行動して悪いことになることはほとんどないので、
プラスになるかもしれない情報があれば積極的に取りに行くという姿勢は今後も大事にしていきます。
コメントはお気軽にどうぞ